【明日なに聴く? | 今日の1曲】 エルガー:スミルナにて

by mezzopiano

今日の1曲|エドワード・エルガー:スミルナにて(1905)

エルガーは1905年の秋、地中海クルーズに出かけ、トルコのスミルナ(現在のイズミール)に滞在した。その街の印象や、旅行体験からインスピレーションを受けて作曲したのがこの《スミルナにて》という小品である。

エルガーは自身の日記にスミルナの様子やクルーズについて記している。

1905年 9月29日
スミルナに到着

9月30日
バザール(市)へ行った。ラクダやロバが市場を横切る。

聖ポリュカルポス[69?ー155?。スミルナの司教だった。]の墓である要塞を訪れた。とてつもない光景だ。

10月1日
とても、とても暑い。シロッコ[サハラから吹く熱い南風]が吹いている。
モスクにて
ダルヴィーシュ[スーフィーの修行僧]が踊っている。5、6人で、とても不思議な、そして美しい音楽を奏でていた。太鼓と(小さな)銅鑼が絶え間なく鳴っている。

(中略あり)

✳︎参考:Novello Publishing《Tow Piano Pieces》(訳:mezzopiano)

異国趣味全開・トルコ感が溢れる!という曲ではなく、あくまで穏やかな地中海の風景を描いている作品であるように思う。冒頭の右手の16分音符が柔らかな地中海のさざなみを連想させる。


中間部stringendo では異国の雰囲気が顔を出しているが、その後すぐに明るく開放的なメロディーが続き、主題へと戻っていく。ここで再び現れた主題の伴奏が3連符で記されており、冒頭の16分音符よりも少しだけ大きめに、タプタプと揺れている波のようである。


終盤grandioso以降はオリエンタル・スケールを使用したような、ほんのりと異国情緒が香るメロディーがffで堂々と奏され、最後はアドリブ風のパッセージで一気に別世界へと引き込まれ、ppで締め括り。波間に消えていくような終わり方。

エルガーの純粋なピアノ曲というのは非常に少ない。(そして演奏される頻度も少なかろう……)そんななかでも、この小品は親しみやすく、簡潔なメロディーラインが美しく、地中海がありありと想像できる。……なのに、どこか寂しさや、過去への憧憬のようなものも感じるのである。隠れた名曲。

pf:mezzopiano

明日も良い曲に出会えますように。
おやすみなさい。

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