【明日何聴く?|今日の1曲】武満徹:波の盆

by mezzopiano

今日の1曲|武満徹:波の盆

ここ数年、邦人作品を聴いたり弾いたりするようになった。

ここまでの音楽人生、あまり邦人作品を聴いたり弾いたりすることなく西洋クラシックメインでやってきたので、触れる機会がほぼなかったし、そういう感性もアンテナも育っていなかっのだと思う。

きっかけは映画《蜜蜂と遠雷》。本は読了済みだったのですが、これは音楽も実際の映像で!と思い、キャストも(自分的に)好感触だったので観に行きました。作中のピアノコンクールで〈春と修羅〉という邦人作品の課題が出たんですが(近年のコンクールでも邦人課題ありますよね)、この曲がとても良くて。この曲は映画では藤倉大さんが作曲されていました。「邦人」=「現代」=「意味不明」という音楽に携わる者として最低な偏見を持っていた私に救いの(?)手を差し伸べてくれた曲になりました。

音楽は芸術なので、現代音楽ではさまざまなアプローチで作品が生まれているのだとは思いますが、私が好きな音楽のポイントは「響きの調和」であり、こればかりは譲れないので、調和をハナから放棄している(それをそもそも目的としない)作品は正直苦手です。調和を棄てることが新しさに繋がるとは思いません。芸術作品としてはよいのでしょうが、調和もリズムもメロディーも拍も棄てるなら、極論、それは「音楽」なのか?と思っています。何か別の芸術なのでは。これは個人的な好みの問題であり、そして音楽芸術に対する私の考えです。「それって、あなたのかんそう?」はい、そうです、私のかんそうです。食べ物の好みと同じことで、一方の存在を否定するものではありません。

でもこの〈春と修羅〉は美しかった。もちろんいわゆるクラシックとは違うのだけれど、とても美しい。邦人の作品も聴いてみたいな、弾いてみたいな、と興味が湧いてきたぞ。

ピアノ講師として様々な子供向けの作品に触れていると、なんとまあ邦人の作品がたくさんあるではないか。よい、非常によい。こども向けなので難解なはずはないが、響きが私のよく知っているものとは一味違う。まずは子供向けの邦人作品をポロポロと演奏して楽しむようになった。

そうしているうちに、芥川也寸志、武満徹、三善晃、伊福部昭など日本音楽界を代表する(今まで聴いてこなかったやつが言うか?)作曲家の作品もピアノ・それ以外も問わず聴くようになった。

そんな中で出会ったのがこの武満徹〈波の盆〉である。
最近武満に夢中なので色々聴いているのだが、圧倒的美しさを誇る1曲。ファンも多いのではなかろうか。

〈波の盆〉は1980年代に日本テレビ系で放送された同名テレビドラマのサントラ。是非ともドラマも見たいのだが、DVDは廃盤となっているらしく……クソッ
戦争によって暗い影を落とすハワイ日系移民家族の物語だそうだが、そんな心に傷を抱えた人に寄り添うような、なんとも静かで優しい主題だ。実験的な現代音楽家としての武満徹しか知らなければびっくりしてしまうような音楽。サントラなので難解ないわゆる「現代音楽」になるはずはないのだが、さすが、映画好きで、実際に映画音楽もたくさん手がけた武満という感じがする。映像は見たことがないのに、聴いただけで「このサントラのドラマ、絶対好きになっちゃう……」という予感がする。

微妙に間がある開始部分、不思議な始まりだ……と聴いていると、フワっと主題に入る。奏でる弦の滑らかなこと、豊かなこと……ひろく、そして穏やかな海の情景が眼前に広がる。滲むようなダイナミクスとともに、波は少し揺れている。作中で描かれているだろう悲しみ、やるせなさ、心の通い合い、優しさ……複雑で繊細な感情がこの素晴らしいメロディーひとつにのってしまう。
指揮者の尾高忠明が指揮をしたときに、オケのヴァイオリンの人が涙を流したことがあると……そりゃそうだろうよ。こんな綺麗な音楽奏でたら泣いちゃうよな。

まぁまずは聴いてみなさいよ。
このCDはヨーロッパでも結構売れたらしいです。(尾高さん曰く)
この曲の美しさは海外の人とも共有できる美しさなんだ、と思うとゾクゾクしますね。
武満を知っていても、知らなくても、他の曲を聴いて敬遠していても(笑)、これは聴いてほしいですね。必聴です。

★おすすめの1枚
💿尾高惇忠:オルガンとオーケストラのための幻想曲/武満徹:波の盆/乱/細川俊夫:記憶の海へ (アシュレー/札幌交響楽団/尾高忠明)

尾高忠明×札幌交響楽団は1度聴きに行ったことがあります。尾高さんの指揮がすごく好きなタイプでテンション上がりました。

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