「抒情」か「叙情」か

グリーグのページに《抒情小曲集》のページを追加した。
この珠玉の作品集は楽譜を眺めているだけでウットリする。何年かかるかわからないが、すべて演奏してみたいと思っている。

ページを作りながらふと気がついた。この作品集の名前は《「抒」情小曲集》なのか、それとも《「叙」情小曲集》なのか?

手元にある国語辞典(明鏡国語辞典)で調べてみよう。
「じょ–じょう」【叙情・抒情】
とある。
なんと、同じ欄にあるではないか……
言葉の意味は「自分の感情を述べ表すこと。」

よく見ると注意書きがあり、「『叙情』は同音の類義語で代用したもの。」これはどういうことなのか?

面白い、というか、私の心を見透かしているアンサーが見つかってしまった。

Q0266
国語の教科書で「叙情詩」ということばが出てきたのですが、辞典を調べると「抒情詩」となっていました。どうしてでしょうか?

大修館書店「漢字文化資料館」Q&Aページ より

まさに私の質問に答えて下さりそうではないか。

ここに記載された回答によると、どちらも意味は同じであるが、戦後の国語改革で「叙情」に統一された経緯があるため、現在正式には「叙情」であるという。
しかし、
抒情詩=詩人が自分の思いのたけを述べること
叙事詩=歴史的な事件などのできごとを歌い上げるもの
というジャンル分けが明治時代に生まれたことにより
「抒情」=感情など思いを述べること
「叙情」=出来事など事実の述べること
というイメージが与えられてしまったのではないか、と。
漢字の意味合いとしては同じだが、使い分けされていたという過去の経緯により、感情がうたわれているものには、現在もこだわりを持って「抒情」の漢字が当てられることがあるのではないか、と結論づけられている。

さてグリーグの作品の話に戻るが、音楽作品という性格上、感情表現が形になっているものだろうし、《Lyriske smastykker(Lyric Pieces)》というタイトルからも「詩(=感情の表現)」であることに違いない。

「叙情」と「抒情」の漢字のどちらを採用しているのか、楽譜出版社や音楽レーベルによっても表記に揺れがある。
前述の通り、現在はどちらも間違いではない(なんなら「叙情」が標準の表記である)のだが、このサイトでは《「抒情」小曲集》と記載することにした。

理由は、
①この作品集の核になる部分は「感情」だと考えるから。各曲には表題がつけられ、様々な表情が見られるこの作品集には「抒情」がしっくりくるなぁ、ということになった。
②「日本グリーグ協会」のHP上での表記は「抒情小曲集」となっている。

色々言いましたが「抒情」も「叙情」も日本語的にはどっちも正解のようです。
でもギロックの「じょじょうしょうきょくしゅう」は「叙情小曲集」なんだな……。しかしこちらは「日本ギロック協会」のHP上で「叙情」で、かつ全く表記の揺れが見られない。「叙情」で統一されている。出版された時代の影響かな?ギロックとグリーグは世代が1つ違うしね。

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