ラドゥ・ルプーの死を悼んで

ラドゥ・ルプーが亡くなった。

正直、クラシック音楽の演奏家についてあかるい方ではない。
自らが演奏する・しないにかかわらず、私より国内外の演奏家に詳しい人はごまんといる。
ずっとルプーのCD買ってます、レコード集めていました、コンサートにたくさん足を運びました、……私はどれでもない。
そんな私がルプーに寄せてつらつら書き連ねるのは厚かましい気もするが……「この人の演奏で聴きたい!」という人に初めて出会ったのがルプーという素晴らしいピアニストだったのである。

ラドゥ・ルプー 1945年、ルーマニア生まれ。ピアニストとして活躍した人生はみなさんご存知の通り。たびたび来日公演を行なっていたが、そのうちの1回だけ、聴きに行ったことがある。

ルプー最後の来日の2013年……の1年前、2012年大阪・いずみホールでの公演だった。
当時大学生だった私は、ブラームスのOp.118の間奏曲を練習していた。ピアノの先生が「ブラームスはルプーの演奏がいいね。来日するし、聴いてみたらどうかな。参考になるよ。」と、チケットを1枚譲ってくれた。先生の友人が行けなくなり、チケットの引き取り手を探していたらしい。プログラムは【オール・シューベルト】だった。ブラームスちゃうやん!
「でも良いピアニストだから、シューベルトも良いよ。高齢になってきたからもしかしたら来日も最後かもねぇ。」などと話をした記憶がある。ルプ?ダレソレ?と、ひどく演奏家に疎い私だったが、いわゆる「名ピアニスト」の生の演奏を聴いてみるか……しかも来日も最後とか言うし、という興味が後押しし、コンサートへ足を運んだのだった。

シューベルトのピアノ・ソナタ21番の演奏が特に素晴らしかった。ピアノってこんな音が出るのか。目の前で人が演奏しているとは思えなかった。何処かから「降っている」ような、美しい音だった。シューベルトの曲の悲しさも美しさも暗さも全部全部のみこんで、よく通る音でピアノが歌っていた。いずみホールからの帰りはぼうっとして、いつの間にか家についていた。そしていつの間にか……ピアノ・ソナタと即興曲が入った4枚組にもなっているCDを購入していた(笑)
ブラームスはどうした、ブラームスは……

ルプーみたいな音が出したくて、羨ましくて、ブラームスもたくさん練習した。Op.118の楽譜はボロボロのクタクタの傷だらけになり、補修テープが痛々しい。

そして2022年、ルプーの訃報。
演奏活動からはすでに引退していたことは知っていたし、2013年の来日が最後だったことも知っていたから、もう2度と演奏を聴けることはないとわかっていたのに、なのに。
あぁ、あれが最後だったんだ、もうこの世にいないのだ。
2度と聞けないのだということをやっと、ちゃんと実感した。

【今日の1枚】

シューベルト:ピアノ・ソナタ集/楽興の時(ルプー)

最初で最後のルプー
…の後に衝動買いした4枚組。
もうストリーミングで聴けるけど、たまにCDを引っ張り出してきて1枚1枚交換しながらきいて、あの日の心地よいショックを思い出している。

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