【全音ピアノピース】を弾く No.233/E.グラナドス:「12のスペイン舞曲」から アンダルーサ

「全音ピアノピース」
ピアノを習ったことがある人は一度やどこかでお世話になっている楽譜なのではないだろうか。
好きなあの曲を1曲だけ、憧れのあの1曲だけ、挑戦したいあの1曲だけ……と、弾きたい曲を1曲単位で手軽に購入することができる全音楽譜出版社の優れたシリーズ。

mezzopianoの独断と偏見と趣味と……で1曲ずつ楽しんでいく企画(?)である。

✳︎全音ピアノピースサイト「全音ピアノピース物語」(公式) に【全音ピアノピース】の詳しい歴史が記載されています 


本日の作品▷▷▷No.233 E.グラナドス/「12のスペイン舞曲」から アンダルーサ

《E.グラナドス:アンダルーサ》

エンリケ・グラナドス(1867-1916)はスペイン北東部カタルーニャ生まれの作曲家。ファリャやアルベニスと並びスペイン近代を代表する作曲家として名高い。民族色の濃いリズムや旋律を感じさせる音楽を作曲したが、ロマン的な性格も強く、甘美で洗練された作品の数々は人々に愛されている。

さて今回の作品〈アンダルーサ〉は《12のスペイン舞曲》という作品集の中の1曲である。パリに留学していた 1887年頃〜1890年に作曲したと考えられている。この作品集はヨーロッパ中から絶賛され、グラナドスはスペイン国民学派の音楽家として注目を浴びることとなった。

中でもギターを想起させる伴奏が特徴的である〈アンダルーサ〉は今もなお演奏される機会に恵まれている人気の曲であり、ギターをはじめとしたピアノ以外の楽器版へ編曲されて愛奏されている。
※なお〈アンダルーサ〉というタイトルはグラナドスによって付けられたものではない。

〈アンダルーサ〉がとりわけ有名だが他も佳曲揃いであり必聴。スペイン音楽の香り、グラナドスの個性を存分に堪能できる曲集である。
グラナドスの孫弟子に当たるアリシア・デ・ラローチャの演奏ではスペイン音楽の「間」が随所に感じられて魅力的である。まずはこの人の演奏を聴いてほしい。「ねっとり」と「簡潔」が最高のバランスで共存している。……別の民族である我々がこの呼吸を真に捉えて演奏できるのかというと……正直自信がない(笑)

〈アンダルーサ〉のほかには第6曲〈ロンデーリャ・アラゴネーサ Rondella aragonesa 〉がおすすめ。ホタ(アラゴン地方の民族音楽)をもとにしており、緩急の激しい中で美しいメロディーがホタのリズムに乗せて次々と繰り出される。また、「ロンデーリャ」とはホタを演奏する弦楽器楽団のことである。ジャカジャカと楽器隊がかき鳴らす様子が目に浮かぶ。テンポがどんどん早くなっていきクライマックスへ向かう時など、ただただ感情がかき乱され心がどこかへ連れて行かれてしまう。

第8曲〈サルダーニャ(アストゥリアーナ) Sardana (Asturiana) 〉も良い。スペインの歴史上イスラム圏に属していた影響か、(この曲は特にそうなのだが)イスラーム圏のクラシック音楽の旋律や音の響きを感じずにはいられない。またこれは別の機会に掘り下げよう……非常に興味深い。


○演奏について

曲の構成はシンプルなA–B–Aの三部形式。ギターの伴奏を思わせるA、ロマン的な性格の強いBが対照的な曲だ。

〈A〉
ギター伴奏を表す内声と、歌を表しているであろう声部の弾きわけをきっちり行うこと。内声はジャカジャカジャカとくっきりと奏する必要があるが、歌の邪魔をしてはいけない。
テンポの「揺れ」を付けること。踊りと楽団の駆け引きや呼吸の即興性を感じられるように rit. 記載の箇所やフレーズの始まり・終わり部分でタメを作ったり、フレーズの始まりでグッとテンポを戻したりとテンポの揺れをうまく表現できると良い。

〈B〉
最初の1音から慎重に、気を遣って音を紡ぐ必要がある。サブタイトルにもあるように「祈り(Playera)」の部分と考えられる。音の数は少なく簡潔ながらも、メロディーも内声も潔く美しい。それをいかに表現するのか……大袈裟な抑揚は不要で、丁寧に真っ直ぐに弾けば「ちゃんと」うまくいくようにつくられている。メロディーはAで登場したテーマの一部分を使っているため、曲全体の統一感も保たれている。付点のリズムは音価の長い音符に重さをもたせ、リズムを生き生きと表現する。リズムが甘くならないように。

〈A〉
1回目のAとは少し変化をつけるとするなら、ff の後にテーマへ戻る際、1回目よりも少し大袈裟に間を取っても良いかもしれない。(「終わり」を近くに感じさせるため)
最後はまさに「フェードアウト」といったふうである。まだまだ続く踊り、歌、祈り……余韻を残しながら情景はゆっくりと遠くへ消えてゆく。

抑揚・間・タメが演奏者によって大きく異なり、個性が乗りやすい曲である(その分演奏センスの良し悪しが出るとも言えるかも)。育ちがスペインでなければそれは真のものとは異なるのかもしれない。だが、まずは自分で歌ってみて、自分なりの自然な呼吸や間を見つける所からはじめてみてほしい。自分の歌となって初めて、ピアノでも思った通りの音が出せるというものである。

次回は
No.287 奥村一:花によせる三つの前奏曲
を演奏します。

全音ピアノピース(勝手に)注目枠「邦人作曲家」の曲です。


○参考文献

  • ピアノ・レパートリー事典/高橋淳(春秋社)
  • 静岡大学教育学部研究報告(人文・社会科学篇)第44号(1994.3)95~106『スペイン民俗音楽「ホタ」一その1』/大槻 寛
  • JSSPM スペインピアノ音楽 学会誌第1号 ( 日本スペインピアノ音楽学会 )  ( 1 ) 3 – 37   2016年05月『エンリケ・グラナドス作品概論 ~テーマと作風の変遷~』/上原由記音

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